箱庭的世界 >> 京都単独煩悩紀行 >> 冷夏にも秋の暑さにも負けず・第2日目-2

 穂野出


比叡山へ向かう雲母坂の登り口にある、雲母漬のみを販売する店。小ナスを白味噌で漬けた独特の雲母漬はこの店にしか無いもので、試食してから買うことになっている。店舗は公家の鷲尾家の雑掌だった田辺家宅跡。

左京区上一乗寺谷田町 詳細はHPで

店舗は国の文化財に指定されている「鷲尾家雑掌宅跡」だそうである。雑掌とは公家に仕えて雑務を司った人のことらしい。内部には公家さんから拝領の品々が賑やかに飾られていて、さながら民俗資料館のよう。

親戚のおじちゃんおばちゃんみたいなかたがくつろぎまくりながら向かえて下さるのだが、とにかくそこに腰掛けてナスとキュウリを試食し雑談する決まりになっているらしい(^^;) そして買う品が決まったら裏の作業場へ行って売ってもらう、という面白すぎるシステムだ。せっかくなので「千葉県人は京都好きが多いのです」と力説させて頂き、ナスの雲母漬けを購入した。普通の小ナスの味噌漬けとは違う独特の甘みと深みでなかなか美味でございました。


店を出て、予約してある「山ばな平八茶屋」で早めの昼食をとるため一乗寺下り松町バス停へ向かった。バス停で地元の紳士が「こっち方面は観光名所無いけど間違うてへんか?」(方言あってます?)と気遣って下さる。で、市バスを待ちながらまた雑談をすることになり、詩仙堂近辺を回った話をすると「村山たか女ぇ言われてもわからへんしなー。面白ないですやろ」(方言あってます?)と言われて大苦笑(^^;) やっと来た京都バスに乗り山ばな平八茶屋に着くと、こちらもまた一段と風格ある店構えだった。



 山ばな平八茶屋


もとは平安初期に比叡山の慈覚大師が休息したことに始まる懐石料理屋・料理旅館で、創業は天正年間とされている。壬生狂言にも登場する麦めしとろろは創業以来の名物。若狭街道(鯖街道)に面しているので若狭の魚を使った懐石料理などもあり、街道茶屋らしい風情の中で味わえる。

京都市左京区山端川岸町8-1 詳細はHPで

ネットで調べたところ格調高そうな料亭なので焦ったが、唯一手の届くメニュー「北山しぐれ3000円」を発見したのでこれを予約して来てみたのである。

変わった店構えなのでどこから入って良いのかわからず、とにかく門(騎牛門)をくぐってみた。たいそう風情のある建物と庭園に目を奪われてうろうろしているところを仲居さんに発見され(恥)、座敷へ通して頂いた。ほんのりとした甘さと塩加減の麦めしとろろは懐かしいような不思議な味で癖になりそう。
有名な壬生狂言に「山端とろろ」という演目があるらしい。茶屋に泥棒が入り店員が捕まえようとしたがとろろ芋の入ったすり鉢をひっくり返してしまい滑って大騒ぎ、という内容だそうだ。狂言にまで登場するというその歴史の深さと知名度には感服致しました。

次に上賀茂神社の社家として知られる西村家別邸に向かう。バス乗り継ぎもいろいろ考えたのだが、ええい、ここは潔くタクシーに乗ってしまえ!



 ●西村家別邸

上賀茂神社の神官の屋敷だった社家(しゃけ)の中で唯一公開されており、もとは錦部家(にしごりけ)の旧宅。庭園は養和元年(1181)上賀茂神社の神主による作庭と思われ、貴重な景観を保つ社家町の中でも最も昔の面影をとどめている。庭内へは明神川の水を取り入れており、「曲水の宴」のための水としたあと再びもとの川へ返す工夫がされている。家屋は明治中〜後期に建てられたもの。

明神川沿いにおもむきある土塀が並ぶ社家町に着き、早めにタクシーを降りて少し歩いてみた。公開されている社家は一件だけだが、他のお屋敷の塀からも形のいい庭の木々が見え隠れしていてついつい覗いてみたくなってしまう。

受付のかたをお呼びして座敷へ通して頂くと、品のある明るい庭園があった。やはり紅葉はまだ多くないが、中央の赤い木がポイントになっていて充分美しい。庭には神事の前に身を清めたという「禊ぎの井戸」や、神山(上賀茂神社の北にある御神体山)の降臨石に見立てた石組などがあるそうだ。禊ぎの井戸は座敷のすぐ下にあったが、見た目はちょっとわかりにくいかも。

上賀茂神社内を流れる御物忌川・御手洗川が合流して奈良の小川になり、境内を出たところから明神川となる。社家ではその明神川の水を庭へ引き入れて清いまま元の流れへ返している。このルールは、昔のままに保存されている景観と共に社家町を象徴する貴重な歴史的遺産となっているそうである。座敷を独り占めしてゆっくり見ていると爽やかな微風が流れてきて心が洗われるようだ。

しばらくすると高校生風のカップルが入ってきた。今年はあちらこちらでお洒落で真面目そうな若いカップルを多く目にする。しかもみな美形なので恐れ入ってしまう。こういうおもむきある邸宅や古拙の庭園などを観賞してどんな風に語り合うのだろう。どうかますます感性を磨いて心豊かな大人になっておくれ(涙)

拝観順路図を見ると建物裏にも池庭があるようなので行ってみた。ガイドブックではあまり紹介されていないが、前庭よりも野趣がただよう感じでなかなか美しいではありませぬか。紅葉もあるしこれは隠れた名所かも。西村家別邸、かなり気に入りました。

屋敷を出て再び明神川沿いに少し歩くと上賀茂神社に着いた。参拝するのは16〜7年ぶりになる。


▲前庭

▲裏の池庭入口

▲池庭の紅葉
(ちょっと暗くなってしまいましたが)


 ●上賀茂神社

正式には賀茂別雷神社。下鴨神社の祭神・玉依姫命の子である別雷命を祭神とするため、下鴨神社と合わせて賀茂社と総称される。
豪族・鴨氏により白鳳6年(678)社殿が造営された記録が残るが、それ以前から賀茂祭(葵祭)の起源となる神事が行われていた。本来は水を司る農耕神であったが、のちに朝廷との繋がりが深まり平安遷都後は平安京の守り神・禊ぎの神として伊勢神宮に次ぐ崇敬を受けるようになった。徳川家の信仰も深く、現在の社殿の多くは家光による造営。

芝生の中の参道を往復するのもつまらないので、奈良の小川沿いから境内へ入ることにした。川沿いには背の高いカエデが多いが、色付きはまだ無くほとんどが青葉だった。
小川の東岸にある渉渓園にちょっと寄り道してみたが、鬱蒼とした高い木に囲まれていて庭園と言うにはかなり地味で不思議な場所だ。帰宅後に調べてみたら、平安建都1200年を記念していにしえの行事「曲水の宴」がこの庭園で「賀茂曲水宴」として再現されるようになったとのこと。うへぇ、そうだったのか…

小川沿いに歩いて舞殿(橋殿)横から楼門へ向かおうとすると沢山の親子連れが。すっかり忘れていたがこの日は日曜で皆さん七五三のお参りに来ていたのだった。
本殿と権殿は非公開なので中門前で参拝して、それから紅葉を探して境内をうろついてみた。あまり色の良い場所は多くなかったが、楼門前の撮影ポイントに赤く色付いた木があって写真もなんとか格好が付いたかも。

細殿の前にある有名な円錐型の盛砂は立砂といい、祭神の別雷神が降臨したと伝わる神社の北北西にある神山(こうやま)を形取ったものだそうだ。てっぺんが異常に尖っているが、小麦粉か何か「つなぎ」を混ぜて固めているのだろうか?(馬鹿)

二ノ鳥居を出たところに小さな神馬舎があった。中には白馬がおわしますではないか。神前に白馬を引き立てる1月7日の白馬奏覧神事で活躍する馬なのだろう。なんだか小さな厩舎で可哀相だ。今日は子供に大人気で記念撮影に大忙し。ご苦労様です。

長い表参道を歩いて境内を出て有名な神馬堂のやきもちを買おうとしたのだが、店の前は大行列で超ガッカリ。ここで時間をとるわけにもいかないので次の円通寺に向かうことにした。上賀茂神社前にはちゃんとタクシー乗り場があるので遠慮無く乗せて頂くことにした。


円通寺までの道には上賀茂神社の摂社でカキツバタで有名な大田神社や酒蔵と庭園のある愛染倉など、ちょっと気になる名所があるのでいつかまたゆっくり来てみたい。
と思いつつタクシーに乗っていると、深泥池の手前で左へ曲がった先から笑ってしまうほどの強烈な登り坂になってきた。ドライバーさんに「25%の勾配だそうですね」と話しかけると「25%の意味がわからない」と言われた。ま、ま、まじですか!?
そうこうするうち無事に円通寺に着いた。 〈つづく〉


▲楼門

▲細殿と立砂

▲神馬舎の白馬
▲紅葉と楽屋(?だったかな?)

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